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サムットプラカン汚水管理プロジェクト

1.サムットプラカン汚水管理プロジェクトについて

プロジェクトの概要

タイ・バンコク首都圏に属するサムットプラカン県における汚水管理プロジェクトであり、300km以上に及ぶ下水管設置、クロンダン区に建設中の1日あたり525,000m3の処理能力を持つ汚水処理施設建設を中心とする。1995年12月に閣議決定され、1998年2月に事業実施者である公害管理局(PCD)によってプロジェクト地がクロンダン区に移転された後、2003年12月の完成を目指して現在建設が進んでいる。

事業実施者

タイ国科学技術環境省公害管理局(PCD)

財源

1997年時点での総事業費は約229.5億バーツである。アジア開発銀行(ADB)から2億3000万ドル、旧海外経済協力基金(OECF)から70億円の融資を受けており、残りはタイの国家予算による。事業費は建設途上の現在でもさらに増大していることが報道されている。

2.日本との関わり

アジア開発銀行(ADB)

ADBは本プロジェクトに対して、1995年に1億5000万ドルの融資、1998年にはさらに8000万ドルの追加融資を行っている。日本はアメリカ合衆国と並んでADBへの最大出資国である。

旧海外経済協力基金(OECF、現国際協力銀行(JBIC))

OECFが1993年に融資したタイ環境基金への112億円のツー・ステップ・ローンの内、70億円が本プロジェクトに使われている。

3.指摘されている問題点

懸念されている環境破壊

建設中の汚水処理施設は、工業団地からの有毒化学物質や重金属を処理するように設計されておらず、また大量の処理済の排水が、汽水域であるクロンダン区の海域に流れ込むことになる。このため、施設からの有毒な汚水の排出・塩分濃度の低下による沿岸の生態系破壊と、漁業に生計を頼っている地域住民の生活への影響が懸念されている。マングローブ林破壊も行われている。タイ政府は漁業被害への補償を検討しているとしているが、地域住民との協議は未だに行われていない。

環境影響評価(EIA)の不在

本プロジェクトについてのEIAは未だ完了していない。タイ政府は、タイでは下水処理施設はEIAを必要としないとしている。これに対し住民は、EIAなしでの下水処理施設建設は1992年環境法、1997年憲法に違反すると主張している。タイ政府と事業者は住民の批判を受け、現在の建設地についてのEIAを開始したが、これは未だ公開されておらず、またEIA実施中にも関わらず建設は続行している。新たなEIA(事業者によれば「環境管理計画」)は、現在ドラフトがADB及びJBICに提出された段階だが、工場排水の汚染レベルが実態と一致しているか、これまで含まれないとされてきた重金属について適切に検討されているかなどがポイントである。

住民参加の欠如

プロジェクトについて住民は合意しておらず、十分な情報公開もなされていない。プロジェクトが決定したのが1995年、クロンダン区への汚水処理施設建設が決まったのが1997年8月であるにも関わらず、住民がプロジェクトの存在を知ったのは1998年後半である。ADBやJBICは、県全体を対象とした宣伝プログラムやパンフレット配布、2000年5月以降の紛争解決委員会へのNGO代表の参加などをもって「参加があった」と称しているが、いずれのプログラムも地域住民との対話と合意形成を意図したものではない。

技術的なヒアリングがPCDによって行われ、その中で学者によりプロジェクトの環境影響について強い懸念が出されたが、地域住民の参加は認められず、報告書も公開されていない。住民は1997年憲法で定められた公聴会を公開の場で行うことを求めているが、これは未だ開催されていない。

サイト変更に関する疑惑

現在建設中であるクロンダン区の土地は海から100mしか離れていない。この地域は地盤がやわらかく、1年で10cmの地盤沈下がある。頻繁に洪水が起こり、また年間10m程度の浸食があり、施設は遠からず海の孤島となることが予想される。にもかかわらずこの地にプロジェクトサイトが移転したのは、土地投機に関係があるのではないかと住民の間で噂されている。クロンダン区には1985-6年にかけてゴルフコース建設の計画があり、政治家に近い企業が土地を安く買い漁った。ゴルフコース建設は地盤のやわらかさから中止されたが、今回、土地を所有する企業はPCDに公示価格の2倍以上で土地を売却している。土地取得にまつわる汚職疑惑については、タイ政府国家反汚職委員会(NCCC)とADBがそれぞれ調査を開始しているが、JBICは未だ動きを見せていない。

経済性への疑問

PCDは汚水処理のため各工場から1m3当たり9-15バーツを徴収する計画である。しかしタイ環境技術協会の調査によれば、サムットプラカン県の3600の工場の内90パーセント以上が自前の汚水処理施設を有しており、またPCDが本プロジェクトの需要を見込んでいるBang Poo工業団地では民間企業がより安く汚水処理を提供している。このためプロジェクトの有用性が疑問視されている。

4.住民の反対運動

地域住民は1998年から強い反対運動を繰り広げている。2000年5月にチェンマイで開催されたアジア開発銀行(ADB)年次総会において、200人を超える住民がクロンダン区から抗議のために集まり、ADBの理事などにプロジェクトへの融資中止を訴えた。ADBによるレビュー・ミッションが6月に行われ、7月に「エイド・メモワール」として報告書が公開されたが、住民の懸念が十分に反映しているとは言えない。住民は汚職疑惑について、タイの国家反汚職委員会やADBの監査室に調査を申し立てているほか、ADBの政策違反についてADBの査察委員会に提訴する予定である。

5.タイの地方・中央議会の対応

現地の地方自治体は本プロジェクトに反対の立場である。処理施設建設地であるクロンダン区行政機構は、1998年1月に土地購入を認める決議を行ったが、この際はプロジェクトについて十分な情報が与えられていなかった。その後プロジェクトについて検討した結果、1999年8月にプロジェクトを見直し、それまで建設を遅らせることを求める決議を行った。

また中央政府の議会においても、2000年3月に、下院統治委員会がプロジェクトの経済・社会影響を再検討し、妥当性を再検討するよう求める決議を行ったほか、2001年1月9日には、上院議員の半数を超える102人が、ADBが即座に地元住民の懸念に対処し、ADBの政策違反について調査すべきだとのレターに署名した。

本件に関する問い合わせ先:

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Tel: 03-3832-5034 Fax: 03-3832-5039
E-mail: info@mekongwatch.org

最終更新:2001年1月16日
作成:2000年5月29日

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