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ヤリ滝ダム
ヤリ滝ダムはメコン河下流域に建設された最初の大型ダムです。設備容量(発電能力)は720メガワット(MW)。高さが70メートルにも及ぶこのダムは、常時満水位(FOL)に面積が65平方キロの貯水池を有します。発電後の電気は、ベトナム南部のホーチミン市を中心とした工業地帯に供給されています。
- プロジェクト名
- ヤリ滝ダム
- プロジェクト所在地
- カンボジアとベトナム国境から70〜80q上流のベトナム中部高原
- 実施主体
- ベトナム電力公社(EVN)
- 事業費・供与先
- 約10億ドル。
- 主に、ロシア政府・ウクライナ政府
その他、スウェーデン援助機関SIDA・ノルウェー政府
スイス政府:スイス企業Electrowatt Engineeringが実施した環境影響評価に109万ドル
- 世界銀行:ヤリ滝ダムからホーチミン市までの送配電施設に5億7,500万ドル
- 状況
-
1993年11月に建設が開始され、2001年に完成した。
2000年5月、全4基のタービンのうち2基が運転開始、正式操業は2002年で現在も操業中。
このダムの建設により1996年後半から下流カンボジア・ラタナキリ州とストゥントレン州で深刻な環境・社会経済上の被害が発生しているが、今日に至るまで下流カンボジアの住民に対する補償は一切行われていません。
- ヤリ滝ダムとは
- ヤリ滝ダムの建設が開始された3年後の1996年から、下流カンボジアのセサン川流域に変化が現れました。ダムの放水により、村人には予測がつかない洪水が頻繁に起こり、川の水は濁り、水を飲んだ村人は下痢や腹痛、のどや鼻のかゆみ、吐き気などの体調不良を起こし、皮膚病も発生しました。また、頻繁に起こる水位の変化が川岸の下部を押し流し、乾季に河岸で行われていた畑作は不可能となる一方、川底や淵が崩落した土砂で埋まり魚の生息域が狭められ、漁獲も減っています。
当初、村人たちはヤリ滝ダムの建設について知らされておらず、精霊の怒りが川の異変を引き起こしていると考えていました。一方、スイス企業が実施した環境影響評価(EIA)では、下流カンボジア住民への影響は無視できるほど小さなものとして、まったく考慮されていませんでした。
ベトナム政府は、カンボジア政府とセサン川開発についての対話を行っていませんでした。2000年3月の突然の放水で、下流カンボジアでは6人の村人が溺死するなど被害が続き、カンボジア市民の訴えによって今では放水の通知は行われるようになりました。しかし、現地NGOは、ベトナム国内のメコン河委員会からカンボジアの同委員会、中央省庁を経て県、郡、コミューン、村という手続きで連絡が来るため、水が押し寄せる前に村まで通知が届くことはまれだと言い、住民にとって困難な状況は続いています。
- 環境影響評価 (EIA)の問題点
- ダムなどの大規模基盤整備事業がもたらす被害を予測・回避・緩和・管理する手段の一つとして、環境影響評価(EIA)があります。定義は国ごとで異なりますが、ベトナムの場合、1993年にはじめて制定された環境保護法で「環境に与える影響を分析・評価・予測し、さらに環境保護に対するしかるべき解決策を提案する改定を意味する」ものとしてEIAの性質を説明しています。しかし、これが国境を越えた環境影響を対象とするかは明確ではありません。
ヤリ滝ダムのEIAが実施されたのは、この環境保護法が制定される前年の1992年でした。EIAが影響評価対象として定めたのは、ダム上流にある住民移転地域と発電所、下流については、ダム建設予定地からわずか6キロの範囲のみでした。ダム建設と運転操業により、セサン川下流の水文、水質、漁業、水生生物に被害が発生することは予測可能だったにもかかわらず、数十キロ下流に位置するカンボジアへの社会環境影響は、まったく検討されませんでした。
2000年2月にNGOが自主的に調査を開始するまで、カンボジアのラタナキリ州とストゥントレン州で発生した大規模な環境・社会・経済上の悪影響については調査も記録もされませんでした。今日に至るまでも被害への緩和策は不十分で、下流カンボジアの住民に対する補償は行われていません。
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